ここでは国際関係論の各学派を簡単に紹介していきますが、まず始めに各学派の共通認識とも言える、国際政治の基本ルールを説明しなければなりません。なぜならば、この国際政治という名のゲームの決まり事をしっかりと理解しなければ、現在の世界がどういった仕組みで動いているのかを理論的に見る事が不可能だからです。

読者の皆様は、ゲームの最も基本的なルールはご存じかと思います。それは

ルール1

国際政治は弱肉強食である

ということです。理論抜きで国際政治を語るのであれば、これだけを知っていれば問題はありません。しかし、世界をより正確に見るためには上記のルールだけでは不十分です。

国際政治は確かに弱肉強食の世界です。ただ、世界史の流れをひも解けば、いろいろな形の弱肉強食の世界が存在していた事が分かります。そして、それぞれの時代の仕組みが、上記以外のルールとして機能します。例えばヨーロッパではローマ教皇が絶大な権力を握り、各国家の内部まで強く影響できた事から、それは私たちが理解する「国家対国家」という現在の枠組みとは全くの異質なものでした。これはアジアでも同じで、中華秩序のように、朝廷への服従を宣言した各国家が実質的に中国の領土として扱われたりと、世界中の各地域ごとに、それぞれの時代で全く異なった弱肉強食の枠組みが存在していました

それは、私たちが住む世界でも変わりはありません。私たちの世界はただ弱肉強食なのではなく、我々の時代特有のルールがあるのです。それこそ

ルール2

現在の国際政治は主権国家の上に成り立っている

という、国際関係の学者にとっては当たり前で、そしてあまりにも当たり前であるためにちゃんとした解説がなかなか行われない事実です。

前述のように、ヨーロッパでは教皇が絶対的な権力を握り、各国の政治に直接手出しする事が許されていました。なぜならば、それがその時代のヨーロッパに於ける弱肉強食のルールだったからです。各国国王は教皇から破門されることを心底恐れ、それぞれの国は権利を主張する事が出来ませんでした。しかし、あることをきっかけに、この秩序が大きく崩れる事になります。プロテスタントの出現です。

カソリック教会と真っ向から対立し、ヨーロッパ中にもの凄い勢いで広まったプロテスタンティズムは、教皇の強大な権力を面白く思わないそれぞれの国の王室や諸候の間に浸透していきました。ヨーロッパ全土は大混乱に落ち入り、その結果ある決まり事が生まれました。国家はそれぞれ均等の権利を持っており、よって

ルール3

国家はお互いの内政に手出しできない

ルール4

国家の上に国家以外の絶対的な権力の存在を許さない

ルール5

国家の衰勢は自らの力に委ねられる

という、それぞれの国家に平等な権利を与えると同時に派生する、新しい弱肉強食のルールの数々が出現しました。

ルール3については特別な説明が必要でしょう。例えば、アメリカはアフガンを空爆する事で政権を作り替えましたが、これは一見ルール3に反することのように思えます。しかし、これはもう一つの例を持ち出す事で解説できます。ソ連がアフガンを侵攻した際、結局政権は作り替えられませんでした。つまり、力でねじ伏せた時内政に直接手出しを出来る、という単純明快な「ルールの応用」です。ルール4によると、国家の上に国家以外の絶対的権力が許されていないだけで、大国が小国の上に立つ事を禁じているわけではありません。つまり、現在の国際政治では残酷なまでの自立、自活が求められているのです。内政に手出しをされたくなければ、強くなるほかに道がありません。(武力でねじ伏せなくても国家は他国の内政を影響出来る、という主張もあるでしょう。私も全面的に同意します)

上記は一般的な説明ですが、私は少し違った意見を持っています。それは、アメリカが新しい世界システムの作成に取りかかりはじめた、というものです。ただ、これについては長くなるのでまたの機会に譲りましょう。

さて、本来ならば上記のルールの数々は、あくまでもヨーロッパの地域的な国際政治システムとして落ち着くと思われました。しかし、これらは現代の世界的なルールとして定着しています。なぜでしょうか。

それは、ヨーロッパの国々がかつて世界を支配したからです。アメリカ、アジア、アフリカに存在していた地域ごとの国際政治システムが力によって無理矢理取り払われ、ヨーロッパの地域的な枠組みに過ぎなかったルールが全世界的な仕組みと化した、というのがこの時代の真の姿です。つまり、ヨーロッパの支配が終わっても、全ての新しい国にとってこのシステムの他の選択肢が無かった、ということになります。

これは当然の話しで、世界中にかつて存在していた地域ごとの秩序の数々も弱肉強食を基にしていましたから、さらに強い秩序の到来には屈服せざるを得ませんでした。この視点がなければ、国際関係を正確に理解する事など到底不可能です。この世界は国家以外の絶対的権力が存在しないが故に無秩序、無政府状態であるものの、一応、力による国家間の秩序が存在している、ということです。

この時点で、「弱肉強食にはルールもへったくれもない」という反論が出てくる事かと思います。「強い奴は結局強いから、ルールなんて無視出来る。新しいルールも作れる」と。そうです。まさにその通りです。私はそれが言いたいんです

さて、次章から国際関係の各理論の説明が始まりますが、現実主義は上記のルールに忠実に世界を分析し、その反面他の学派は上記のルールをどうしたら壊せるかに主眼を置いています。取りあえず、私はここで後者をメチャメチャに批判せず、出来るだけ公平にそれぞれの理論を紹介したいと思います。ちょっといじめるかもしれませんけど(えー