「Power Game Journal」開設について
かれこれ約20年前に「陽の杜」というテキストサイトを運営しておりました、管理人masaと申します。旧サイトは今に至るまで放置していましたが、この度のコロナウイルス禍を受けて、当サイト「Power Game Journal」に一部データを移行し活動を再開することとしました。
以下、ちょっと長いですがインターネット老人会メンバーの戯言です。
目次
開設の主旨
When Everybody is Somebody, Nobody is Anybody
私がテキストサイトを運営していた2000年代初頭に比べると、スマホの普及によりネットは万人のものとなり、TwitterやFacebook等SNS全盛期が訪れ、全ての人が発信者となった感があります。「陽の杜」は約20万PV/日を誇り、政治系テキストサイトではそれなりのポジションにあったと自負していましたが、そのレベルは今や鼻で笑われる規模。あの時にアフィリエイトという仕組みさえあれば、就職せずに資金を稼いで研究者やプロライターの道に進むことも出来たかもしれません。こうした意味でも氷河期世代の機会損失はバカにならないんじゃないでしょうか。
ともかく、優良なコンテンツが増え、特に国際関係論界隈では、仕事にかまけて勉強を怠っていた私には書けない遥かに精緻な分析も見かけるようになり、情報の消費に徹することとしました。海外赴任から帰国後はTwitterにも手を出しましたが、結局、文字数制限で論旨が途切れたり、意味がある事を書いてもTLの濁流に流されたり、日本語に不自由なユーザーが多い等で肌に合わず、今や情報収集ツールとなっています。また、一時期は、「陽の杜」のファンであった編集者の方からお誘い頂き、偽名で某雑誌に論文を寄稿する、なんて事もありました。これ、本名の偽名ではなく、本名のHNである「管理人masa」の更に偽名ですからね。こんなメタな経験の当事者になるとは、人生分からんもんです。
昔のファンの方といえば、実はまだファンレターを頂く事があります。ファンの方は学生時代のあの無茶苦茶なノリを気に入って下さったわけで、「詳説:国際関係論の完結を待ってます!」と言われても一介の商社マンに堕した私に当時の再現を出来るはずもなく。ガッカリさせてしまうんでは無いかと思って、殆ど返していませんでした。ファンレターの不義理と、「陽の杜」で畳めない風呂敷を広げまくり、拾えない布石を撒き散らしたこと、この場を借りて心からお詫び申し上げます。
会社ではバリバリやってますし、情報の消費者として、私もeverybodyの一員として余生を過ごそう。そんな考えを持っていました。
そう。コロナが来るまでは。
ポスト・コロナの世界
ポスト・コロナの世界を純粋にパワーバランスの観点から解説する、読み応えのあるコンテンツがネットに無いんですよね。そりゃそうです。現在進行形ですから。病態や治療法など、そもそも事実関係が判然としていない部分も多く、ワクチンが出来ても無事に収まるのかどうかも不明。経済の影響なんぞ、実体経済の悪化がどこまで進むやら。直感的に、「あ、これ世界変わるな」と多くの方が思ったでしょうが、この状況で「これから何が起こるか」を語るのは常人の精神では無理です。
しかし、理論があれば別です。以前書きましたが、理論は未来予測のために存在します。現実主義の最重視変数はパワーですから、その他の事象はある程度濃淡をつけて理解しつつ、今後のパワーバランスがどうなるかを、学生時代の理論原理主義に立ち戻って分析したら、かなり普遍的・汎用的な示唆が得られるのでは無いか?というのが、Power Game Journal開設にあたっての私の仮説です。
覇権交代の足音
特に、中国。今や世界第二の経済大国となり、周辺国との摩擦を恐れず覇権への道を元気いっぱいに一直線へと進んでおられます。まさかここまで上手くやるとは思っていなかった。実際、「陽の杜」で記した中国関連の分析はほとんど外れています。現場を知らないあの頃の私は、近代化理論が成就することを願って商社マンとなったわけですが、一向に民主化や分裂の気配を見せない。逆に、米国の弱体化と相待って相対的なパワーはみるみる強化され、このままでは米中対立の蓋然性は高く、日本がバックパッシングの被害者になる未来を非常に危惧しています。この辺のスタンスは、(情報が古すぎて移行を断念した)「図解:対テロ戦争」と変わりません。
コロナ禍のはじめに露呈した中共独裁体制の危険性は、今回各国の記憶に深く刻まれ、覇権交代の試みは相応のリアクションを持って迎え撃たれるでしょう。あの国に覇権を任せれば大変なことになると、皆が改めて認識したはずです。同時に、独裁の有益性も、速やかな感染者隔離やロックダウン等強制措置と、強烈な防疫体制の構築から注目されました。日本の西洋世界への抵抗は先の大戦で失敗に終わりましたが、中国の試みはどのような結末に至るのか。米国と世界を二分する勢力圏が確保でき、生存が保障されたら止まるのか。それとも愛国教育の下で形成されたあまりにも歪んだ世界認識から、憎き西洋に作られた現行の国際システムを破壊するまで突き進むのか。ここらをパワーバランスの観点から解説する文献が無い。無ければ自分で書くしか無い、というのが新サイト開設の発想の原点です。
なぜ移設なのか
くつ王さんの活躍
「陽の杜」とほぼ同時期に、「ブルータスお前モカ?」という(確かさるさる日記だと記憶していますが)キラリと光るテキストサイトがありました。現在は国際感染症センターでコロナ対策の最前線に立っている、忽那賢志先生ことくつ王さんのサイトです。くつ王ブログのファンであった「3月のライオン」で知られる羽海野チカさんとの微笑ましいやりとりを経て、手洗い・うがいを呼びかけるポスターが作成されたことでも話題になりました。これに元気付けられたテキストサイトの元・管理人は多いのでは無いのでしょうか。
羽海野チカ先生「20年以上前だと思うのですがネットでとても面白いブログを書いている人を見つけまして……」https://togetter.com/li/1495762
真面目でお堅い記事を書く傍ら、不純物の一切無い毒まみれの政治日記が主力コンテンツであった「陽の杜」と比べ、爽やかな自虐ネタが特徴だったくつ王ブログは女性にも人気があったと思います。そんなある日、忽那先生がどこかのインタビューで、くつ王ブログは下品なので消しました、と仰ったんですね。そんな印象は全然無かったのですが。
大学卒業後、陽の杜は「初心忘れるべからず」とか言って放置していたのですが、ここで冷や汗が。くつ王ブログが下品だったら、陽の杜はなんだろう?汚物かな?
さらば黒歴史
実は私には中学生になる子供がおり、このまま行くと政治クラスタに仲間入りしそうな雰囲気があります。特に、陽の杜は国際関係論の特定の単語で検索したら、どこも一発でヒットする内容でしたので、このまま行けば辿り着くのは必然。これは将来的に事故が起こる可能性もあるぞと、恐る恐る、ほぼ10年ぶりに意を決して開けてみたところ。
消毒が必要な汚物が、そこに横たわっていました。
下品どころじゃねぇよ!ただの闇だよ!何かドス黒いものを拗らせた危ない学生だよ!こんなモノを見られたら、父の威厳は東シナ海の彼方に吹き飛んでしまいます。私は選択しました。これは無かったことにしよう、と。空虚な初心より、リアルな父の威厳を。これが、陽の杜をわざわざ潰した最大の理由です。お前に誇りは無いのか、とインターネット老人会の皆様から聞こえてきそうですが、はい、そんなものはありません。現実主義者なもんで。
丁度、会社の中でもそれなりの立場にあり、断片情報から身バレされると、世の全てに喧嘩をバーゲンセールしていたあの内容では困ったことになる、という状況でもありました。修正も試みましたが、過去愛用していたAdobeGoLiveが絶版になり、同ソフトが記述するソースコードが非常に特殊だったのでアップデートがほぼ不可能になっていました。また、陽の杜を設置していたplalaサーバーは貧弱でSSL対応も無くCGIもいつのまにか廃止され、セキュリティ的に限界が来ていた、という背景もあります。そして何より、コロナの在宅勤務で時間は十分にある。あらゆる意味で、サイトを再構築する舞台装置が整っていたわけです。
「Power Game Journal」へ
hatenaやnoteといったブログサービスも選択肢ではありましたが、昔から他人のプラットフォームに身を委ねたくない性分だったため、どうせならサーバーを立てて、WordPressを一から勉強して自分でやることにしました。印象も変えたいので、闇を感じさせる真っ黒な背景から驚きの白さへ。名称は分かりやすく年相応のビジネスライクな感じに。
諸悪の根源たる過去の政治日記は全て封印しましたが、連載を中心とした主力コンテンツはひとまず移行したので、暫くはこちらをお楽しみください。他にも、本が書けるほどの膨大な記事があるので、順次アップしていきたいと思います。過去の遺産で食いつなぎながら、細々とやっていきたい。但し、一時バズった「図解:対テロ戦争」は、情報があまりにも古いので、残念ながら復活することは無いでしょう。逆に、私の英語論文がベースになっていた未完の連載「二つの自由のテーゼ」は、驚異の翻訳エンジンであるDeepL先生のお陰で、完結する日が18年越しにようやく訪れそうです。
移行作業で改めて実感しましたが、やはり基礎理論は強い。世界がどう変わろうと、汎用性を持ち続ける。今の私が読み返しても面白い。そりゃそうですよね。自分が読みたいものが無かったので書いたのですから。そんな中、以下の記述がありました。偉いぞ俺。よくやった。
(将来)多忙な毎日の末に自分の目的意識や、国際関係論のコアを忘れてしまうかもしれません。この連載は、それを憂いた現在の私が、将来の自分のために書くものです。
詳説:国際関係論 – なぜ理論を語るのか
少し前に検索エンジンに対して一通り削除申請を出し、この度、旧サイトの全削除を確認できたので、「Power Game Journal」開始と相成りました。あまり風呂敷を広げすぎず、毒も少なめで、細々とやっていきたいと思います。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。